ベビメタ七転八倒

ベビメタのブログだったのに最近は鞘師多め

鞘師里保の歌唱はリズムセクションである④

(この投稿は前3回からの続きです。よろしければ①②③もご覧ください。)

 

5. 鞘師エース期の楽曲高速化とその反転

前回の投稿後に調べ始めたことがあるのですが、その結果があまりに鮮やか過ぎて驚きました。それは楽曲の速度についてです。

2011年の9期加入から2013年5月の田中れいなラスト参加シングルまでの間、シングルA面曲のBPM(1分あたりの拍数)はおおよそ126から144くらいでした(数字は私のラフな計測ですので、大体そのくらいという程度でご覧ください)。例外として『まじですかスカ!』や『ピョコピョコ ウルトラ』が174程度と極めて高速ですが、この2つはコミカルな楽曲なので別物と捉えて良いでしょう。

ところが、『わがまま 気のまま 愛のジョーク』になるとBPM156とギアが明らかに上がり、『Password is 0』が150、最速の『What is LOVE?』では200に達しました。比較的遅い『君の代わりは居やしない』や『TIKI BUN』でも140くらいあるので、この時期の楽曲は明らかに高速化していたと言って良いと思います。

ところがこの同じ時期に、真逆の方向を探るかのような興味深い楽曲が出てきました。2014年1月リリースの『笑顔の君は太陽さ』です。

この曲は非常に手が込んだ作りになっていて、全体の基本的な構造は4分の4拍子でBPM160という高速なのですが、「(ドン、ドン、パン)」という手拍子が印象的なイントロ前半の部分は半速の2分の2拍子(BPM80)、イントロ後半は4分の4に移るものの、「悔しさは、忘れるもんじゃない」で始まるAメロから再び2分の2になり、ゆったりしたテンポ感で歌が流れていきます。その後サビでは4分の4になりますが、2番に入って再びテンポの入れ替わりが繰り返されていきます。また、スローな部分では歌の言葉が短く刻まれていて、スローでありながらキビキビしているという小気味の良い楽曲になっているのです。

推測するに、この時期の楽曲制作陣は今後リリースする曲の多くが高速化していくことを見通しながら、当時のモーニング歌唱の特徴を損なわずにスローに聴かせる楽曲作りにも取り組んだのではないでしょうか。そして、その試みを更に推し進めたのが2014年4月リリースの『時空を超え 宇宙を超え』です。

BPMが114程度というそれまでのモーニング史上で稀に見るスローなこの曲ですが、歌唱にはしっかりとモーニングらしさが詰まっています。歌い出しの「私はまだね未完成」の部分を見てみましょう。

「わっ、た、し、わ、まっ、だ、ね、み、か、ん、せい」

声のボリュームは控えめで囁き声を混ぜた静かな歌唱ですが、音節単位で歯切れ良く歌う歌い方は他のモーニング楽曲と変わりません。その中でこの曲で特に印象的なのが、フレーズの最後(上の例では「未完成」の「い」)の音を半拍でスパッと切っているところです。曲中に同様の箇所がたくさんあり、「時空を超え」の「え」や「宇宙を超え」の「え」では音源を編集する際に機械的に声を半拍で切り落としているようにも聞こえ、曲作りの中でフレーズ末尾の処理が強く意識されていたことがわかります。『時空を超え 宇宙を超え』は、曲調やテンポがどうあろうとも「モーニング歌唱」が成立することを示した記念碑的な楽曲ではないでしょうか。

小田さくらが2019年3月のソロコンサートで『時空を超え 宇宙を超え』を歌った映像を見たのですが、そこで彼女は末尾の音をほぼ2倍の拍に伸ばし、その中でビブラートをかけていました。そもそもアレンジもテンポもオリジナルとは大きく違う演奏ではあったのですが、この末尾処理だけでモーニング的な歌唱と決定的に違って聞こえるのがとても興味深く思いました。)

さて、今回見てきた『笑顔の君は太陽さ』から『時空を超え 宇宙を超え』につながるスロー曲の流れは翌2015年の『冷たい風と片思い』へと向かっていくのですが、2015年はいくつもの大きな変化が生じた年でした。次回はこの2015年の楽曲を見ていきたいと思います。

(続く)