ベビメタ七転八倒

ベビメタのブログだったのに最近は鞘師多め

鞘師里保の歌唱はリズムセクションである⑤

(この投稿は前4回の続きです。よろしければ①〜④もご覧ください。)


6. センターレス化と一時代の終わり

2015年にモーニングの楽曲に起こった変化は多岐にわたるのですが、それらを敢えて一言で表現するとすれば、「センターレス化」ということになるだろうと思います。ここでいうセンターとは、フォーメーションダンスのポジションではなく、「楽曲の芯を作る歌い手」というような意味です。どういうことなのか、具体的な楽曲で見ていきましょう。

Oh my wish!』(2015年8月リリース)は、2015年の楽曲の中では唯一前年の高速化の流れを受け継いでいて(BPM164程度)、インストの曲調にも継続性が感じられます。一方、歌とダンスでメンバーが2チームに分けられていて、ダンスチームとなった鞘師、譜久村、生田、石田の4人は歌唱に参加していません。なので、2013年後半から続いた一連の楽曲から鞘師の歌声が抜けたらどうなるかを示してくれる曲でもあります。

この曲の歌唱では、鈴木香音工藤遥佐藤優樹小田さくらがソロを取る頻度が高く、良い面としては各人の個性ある歌声が聴けて楽しいのですが、その反面各自の方向がバラバラで、グループとしての個性は見えにくくなっていると感じます。佐藤も小田も、この時点ではまだ全体を牽引するだけの歌唱力を持つには至っていません。それでも『Oh my wish!』は曲調のおかげで当時のモーニング楽曲らしさを維持していましたが、2015年のその他の楽曲には更に大きな変化がありました。

2015年最初のシングルで4月にリリースされた『青春小僧が泣いている』と『夕暮れは雨上がり』、そして8月リリースの『スカッと My Heart』の3曲はいずれもBPMが120程度なのですが、このあたりの速くも遅くもないテンポの曲はそれ以前のモーニング楽曲では非常に少なく、シングル曲では2009年2月リリースの『泣いちゃうかも』以来6年ぶりのことです。

この3曲を聴くたびに自分が感じるのは、なんとも言えず掴みどころがないなあということです。その理由は何かと考えると、この馴染みのない楽曲スピードに対して鞘師を含めどのメンバーの歌唱もジャストフィットしていないことにあるのだろうと思うのです。

青春小僧が泣いている』では、まず何と言っても鞘師の歌唱が目立つ箇所が非常に少なく、数カ所聴こえるところでも曲全体をリードするような役割ではまったくありません。『夕暮れは雨上がり』だと鞘師の出番がもう少し多いですが、例えば終盤に「照らしてくれました(て ら し て く れ ま しーーー たー あー)」「未来へ(み ら い えー)」といったソロがあるものの、楽曲世界の中心からは遠く感じられます。

鞘師以外のメンバーは、『Oh my wish!』でも触れたように自分の歌唱で曲全体をリードするだけの力は持てておらず、楽曲に芯を通す歌い手がいないセンターレスな状況が広がっていたのがこの時期の状態でした。

(話が飛びますが、鬼門とも言えるBPM120前後の楽曲はこの3曲以降一旦姿を消し、次に現れるのは2017年3月、小田さくらがいよいよ歌唱の牽引者として躍進する『ジェラシー ジェラシー』となります。)

(※追記:2015年の秋ツアーで初披露された『私のなんにもわかっちゃない』もBPM120程度で、やはりこの時期に何らかの明確な意図を持って楽曲制作が行われていたことが窺えます。)

さて、2015年で最後に触れなければならないのは、鞘師里保が最後に参加したシングル(2015年12月リリース)の中の2曲についてです。当初は鞘師のソロ曲になる予定だった『冷たい風と片思い』、最終の武道館公演で披露された『Endless Sky』。どちらも鞘師の卒業というドラマと切り離すことのできない楽曲であり、そのストーリーを知る者は心を揺さぶられざるを得ません。

ただ、ここで敢えて背後のストーリーを切り離し、楽曲だけを冷静に見てみると、この2曲でも実はセンターレスが起きていたと自分は思うのです。「冷たい風の中 歩いて帰るけど」、「生きてくルールに縛られてる」、どちらもエモーショナルな箇所ですが、彼女の歌い方がこれらの楽曲に本当に合っているのかというと、そうでもないと感じざるを得ません。

こうして楽曲との間に距離が生じたまま、鞘師里保がモーニングの歌唱に大きな影響を与えてきた一つの時代が終わりました。今回はなんともモヤモヤした話になってしまいましたが、しかし、このモヤモヤ感こそが2015年を象徴していると思うのです。

それでは残されたメンバーが歌う楽曲はその後どうなっていったのでしょうか。項を改めてまた書いていきたいと思います。