ベビメタ七転八倒

ベビメタのブログだったのに最近は鞘師多め

マンガヒロインと中元・鞘師

BABYMETALの物語はマンガを超えている、あまりにもドラマチック過ぎてマンガなら絶対に編集者からボツにされるレベルだ、などとよく言われますね。そういう声を聞くたびに自分が思い出すマンガがあります。

曽田正人作の「昴(すばる)」という作品で、小学校低学年でバレエを始めた主人公・宮本すばるが日本から飛び出て世界で認められ、果てはパリ・オペラ座バレエ団のエトワール(最高位)に登りつめるまでを描いています。

この作品には随所に中元すず香がダブって見える箇所があるので、ここでは二つ紹介してみます。

一つ目は、宮本すばるにとってバレエが命懸けであることです。彼女には双子の弟がいたのですが、脳腫瘍で入院生活を送っていました。日に日に意識が薄れていく弟は言葉での意思疎通ができなくなる。そこですばるは、弟の表情からほんのわずかでも反応を得るために、毎晩病室で何時間も踊り続けたのでした。彼女にとって弟と心を通わせる唯一の方法が自分の踊りだった。弟はその後亡くなりますが、これが大きな原体験となって、自分からバレエを取ったら何も残らない、バレエを突き詰めるためには自分の生命の危険も厭わないという、強烈な生き方をする少女に宮本すばるはなっていきます。

一方、我らが中元すず香には、私から歌を取ったら何も残らないという有名な言葉がありますね。彼女に宮本すばるのような壮絶な経験があるとは思えません。しかし、ライブであれだけのパフォーマンスをし続ける、しかも可憐Girl’sが始まった10歳の頃から現在に至る11年の間にステージ上で緊張感とエネルギーを緩ませたことがおそらく一度もないというのは、どう考えても尋常ではありません。理由はなんであれ、人並み外れた決意を持って彼女が舞台人生を生きていることは確かです。

さて、宮本すばると中元すず香が重なって見えるもう一つの箇所についてです。宮本すばるは国際コンクールで最高位の賞を得たのち、ヨーロッパの名門バレエ団の養成学校に入学する機会を捨てて、ニューヨークにある無名のバレエ団に参加します。その彼女に目を留めたのが世界屈指のバレリーナであるプリシラ・ロバーツという人物。そして偶然にも宮本すばるとプリシラ・ロバーツは、同じニューヨークにおいて同じ日程で、モダンバレエの最高傑作である「ボレロ」をそれぞれが所属するバレエ団の公演で踊ることになりました。

迎えた公演初日、プリシラ・ロバーツのステージが観客に極度の緊張を強いる特異なパフォーマンスだったことを聞いた宮本すばるは、「私が皆んなを連れて行く!」と叫びます。すなわち、自分は観客に何かを無理矢理に受け取らせるのではなく、劇場にいる観客全員をどこか別世界に自分と一緒に連れて行くのだと宣言したのです。

このシーンも私には中元すず香が重なって見えます。東京ドームのステージに立ったもののここがゴールではないとわかったと語る彼女。そして、すべてのステージで観客をかつてない世界に導くことが自分の責務だと言い切る彼女。自分自身に極めて高い目標を課し、それをクリアするために観客に向けて恐るべき熱量で演じる姿が、宮本すばるとまったく同じなのです。

他にも書きたいシーンが色々あるのですが、キリがないので話を先に進めます。

自分がBABYMETALにハマって以来、このように宮本すばると中元すず香の共通点について考えてきたのですが、このところ毎日研究を重ねている鞘師里保にも宮本すばると重なる点がいくつもあることに気づきました。

中学生になった宮本すばるは日本有数のバレエ演出家の目に留まり、「白鳥の湖」の群舞メンバーに抜擢されます。初回の練習では要領がつかめず苦労したものの、あるきっかけで勘所を掴むと他のベテランバレリーナをグングン引っ張り始めます。全員が宮本すばるの一挙手一投足に影響され、いつもより格段に強く大きく踊ることを強いられる。その日の練習が終わる頃には彼女以外の全員が疲労困憊して倒れ込んでしまうのでした。

この話が鞘師里保とどう関係するのでしょうか。

今年3月に鞘師が出演したハロプロのイベント、ひなフェスでの Only you と One・Two・Three のメドレー動画を何度も繰り返し見ているのですが、これは本当に素晴らしいパフォーマンスだと思います。モー娘の現役メンバーと鞘師の歌とダンスが緊密に連携して、非常にタイトでエネルギッシュなステージになっている。

一方、現在のメンバー(モーニング娘。19)だけでのパフォーマンスはどうかと見てみると、印象がまったく違います。メンバー各自の個性が様々に出ていて賑やかで楽しい感じではあるのですが、歌とダンスに全員を貫く芯が通っておらず、タイミングの取り方が各自バラバラなために、雑然としてしまっていると自分には感じられます。

わずかではありますが自分も歌や楽器の演奏をしたり、プロダンサーになった友人の踊りを間近で見たりした経験から、一流のパフォーマーにはある共通した能力があると私は考えています。それは、拍のタイミングを常に正確に(あるいはわずかに早く)取ることによって、音楽やダンスをみずから引っ張っていく能力です。バックの音源や周囲の演者の動きに受動的に合わせていると、自分の歌やダンスは微妙に遅れていきます。そうではなく、自分の体の中にリズムやテンポを生み出す動力源を持つことによって、正確かつ前へ前へとダイナミックに前進する表現が可能になるのだと考えています。

2012年頃から最近までのモー娘のステージ映像を手当たり次第に見ていますが、メンバーの大半は周囲に合わせるパフォーマンスをしていて、歌やダンスの動きが遅れ目になったり、遅れたり早くなったり安定しない様子が見て取れます。その中で道重さゆみは拍の取り方がとても正確ですが、周囲を引っ張るほどの牽引力にはなっていないように見受けられます。

一方、鞘師里保はというと、歌もダンスも正確無比であるのに加え、拍をピンポイントで刻むその一瞬前から全身でその準備をしている気配を周囲に強く発散している。そのために、他のメンバーは鞘師が発信する「気」に否応なく巻き込まれ、結果としてレベルの高いステージが実現されたのだと思うのです。

ずいぶん話が長くなってしまいました。結局何が言いたいかというと、世界レベルで観客に感動を与えるステージパフォーマンスには普遍的に重要な共通要素があって、中元すず香鞘師里保といった人達は現実世界でそれを体現しているのだと自分は思います。次はどんな「マンガ並み」や「マンガ超え」の姿を見せてくれるのか、とても楽しみです。