ベビメタ七転八倒

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今さらですが、EDMとは? ④

しばらく間があいてしまいましたが、モーニング娘。のいわゆる「EDM路線」に関する話をまだまだ続けていきます。

前回の「今さらですが、EDMとは? ③」では、2009年の『泣いちゃうかも』から2011年4月の『もっと愛してほしいの』までを取り上げました。今回はいよいよ2011年6月リリースの『Only you』(編曲:大久保薫)について語ります。

 

3. 『Only you』こそが “転換点” だった

 

モーニング娘。の楽曲が9期加入以降にEDM路線に転換していったという話はよく言われていますが、その転換がどの楽曲からなのかは人によってまちまちですね。『恋愛ハンター』や『One・Two・Three』を挙げる人が多いですが、フォーメーションダンスに着目して『Help me!!』に注目する人もいて、どれも一理あるように思います。

それにくらべて『Only you』を挙げる人は少数派だと思いますが、この前後の時期の楽曲をひたすら聴き込んでみて、自分としては次の結論に至りました。

  • 『Only you』こそがモーニング娘。の楽曲と歌唱が大きく変化した転換点であり、『Only you』が起こした大転換は2021年の現在まで続いている

だいぶ力んでしまいました。まずは楽曲を聴いて落ち着きましょう。

『Only you』といえば、まず頭に浮かぶのがサビのメロディーですね。「愛しの君へ」から「貫いてね」「君を守る」までの18小節におよぶ長い歌メロが実に印象的です。しかも、この曲は冒頭がサビで始まりますし、その後も1番の後半、2番の後半、最後の間奏明けと合計4回もサビが繰り返されるので、「Only you = サビのメロディー」というイメージを持ちやすい作りになっています。また、これを歌っているのは大半が高橋愛田中れいなであり、2009年から続いてきた “プラチナEDM” の延長上の楽曲だと捉えられやすいものと思います。

ところが、サビ以外の部分に目を転じると景色は大きく変わります。通常多くの楽曲で見られる「Aメロ→Bメロ(→サビ)」とか「Aメロ→Bメロ→Cメロ(→サビ)」という構造が『Only you』にはまったく当てはまりません。自分なりに解析すると、次のような構造になっています。(歌詞は1番のもの)

  • A(4小節):愛は不思議/強くなるの/私じゃない/私がいる
  • B(2小節):Ah 邪魔などさせない
  • A(6小節):愛の力/みせてあげる/君は不思議/無邪気なだけ/そんな所(トコ)が/素晴らしいの
  • B(2小節):Ah こんなの初めて
  • A(2小節):愛の形/知ってほしい
  • C(4小節):誰も彼も君の事をいっぱい/大好きになってゆくのが現実
  • A(4小節):君の魅力/そこが魅力/ほんの少し/時にジェラシー
  • C(4小節):だけど今は君がこの世界/きっと変えてくれること祈ってる
  • C'(3小節):素晴らしい星に変えてください

このように、2小節から6小節の単位で曲が目まぐるしく動いていきます。そして、A、B、C (C') はリズムの点で明確に異なる特徴があります。

  • A:3連符(1拍を3等分)
  • B:4分音符(1拍刻み)
  • C (C'):8分音符(1拍を2等分)

C (C')はさらに、「誰も彼も君の」のように8分音符を3つずつの単位で歌わせることで、Aと似た印象を与えるというトリッキーな構造になっています。

このサビに挟まれた1番・2番の特徴を一言で表せば、「メロディーよりもビートを重視している」ということではないでしょうか。歌っていて高揚感があるのはおそらく C' の3小節だけで、それ以外の部分では「歌はビート表現の道具になった」と言っても過言ではないと思います。

それでも『Only you』は曲のほぼ半分を占めるサビのメロディーが優位に立っていました。しかし、その後の『恋愛ハンター』ではメロディー優位がAメロのみに後退し、さらに『One・Two・Three』に至って楽曲全体をビートが支配するに至ります。

その後、2014年の後半あたりから極端なビート優位ではなくなっていくものの、歌を音節単位で細かくコントロールするモーニング娘。特有の唱法は現在まで10年にわたり綿々と続いています(このあたりについては以前の投稿「鞘師里保の歌唱はリズムセクションである①〜⑥」で一部触れました)。この新しい大きな流れの出発点が『Only you』だったと私は思うのです。

 

さて、次回は『恋愛ハンター』に触れつつ、『One・Two・Three』を中心に語っていく予定です。