ベビメタ七転八倒

ベビメタのブログだったのに最近は鞘師多め

LILIUMの歌い手たち

黑世界の公演に向けてTRUMPシリーズの研究に余念の無い人も多いのではないかと思います。一方、自分はと言いますと、実はまだLILIUMから次に進むことができずにいるのですが、その理由の一つにDVD付属のCDが素晴らし過ぎることがあります。このところ何度も繰り返し聴いているので、その中で感じたことを今回は書いてみます。

LILIUMに出演したメンバーのパフォーマンスは皆それぞれ素晴らしいと思いますが、その中で歌に注目すると、全出演者の中でも小田さくら石田亜佑美佐藤優樹和田彩花田村芽実鞘師里保の6人に自分は特に心惹かれます。そして非常に興味深いのは、舞台上の世界と観客を結ぶ空間の中で、それぞれが演じる役柄と本人自身の位置どりが六者六様であることが歌からも感じられ、そこに各人の個性が如実に表れていることなのです。一人ずつ見ていきましょう。

1. 小田さくら(シルベチカ)

LILIUMのCDは、1曲目の『Forget-me-not 〜私を忘れないで〜』がいきなり衝撃的です。ヘッドホンで聴くと小田さくらが自分の頭の中にいて直接歌いかけてくるような錯覚に陥るのです。

そのためもあるのか、小田はシルベチカそのものというより、舞台上のシルベチカと観客との間に立つ語り部としてシルベチカの歌を歌っているように自分は感じます。

舞台世界のシルベチカ → 小田さくら → 観客

という構図です。

演劇女子部の舞台で、小田は何の役をやっても小田に見えるという声を聞くことがありますが、それには小田の「語り部」としての位置取りが関係しているのではないでしょうか。

2. 石田亜佑美(チェリー)

語り部という観点で少し似ているのがチェリーです。ただ、こちらはチェリーという役自体が舞台世界と観客を繋ぐ媒介になっていて、石田亜佑美はそのチェリーと見事に一体になっています。チェリー=石田は、舞台世界と観客の双方と自由にやり取りをしながら場を一体のものにまとめ上げる重要な役割を果たしていますが、これは結構難度の高い演技なのではないでしょうか。

舞台世界 ↔︎ チェリー(=石田亜佑美) ↔︎ 観客

『ひとりぼっちのスノウ』を歌うチェリー(=石田)は、単に劇中の人物が歌っているのではない、しかし影でナレーションのように歌っているのでもない。微妙な位置に身を置きながら生き生きと歌った素晴らしいパフォーマンスだと思います。

3. 佐藤優樹(マーガレット)

『プリンセス・マーガレット』は楽曲として舞台から独立して生きていくことのできる、自己完結した名曲だと思います。ディズニーのアニメの中に出てきそうな感じですね。

そして、この曲を歌う佐藤優樹については、もう何と言っても、

佐藤優樹 = マーガレット

これに尽きます。完全に一致している。

極端に言えば、舞台世界も観客も置き去りにして「佐藤優樹=マーガレット」がニコニコ歌っている。そして、佐藤以外が演じるマーガレットなどあり得ないし、佐藤がマーガレット以外の役を舞台で演じることも想像できない、と感じさせられてしまうのです。

歌にディズニーらしさを感じるためかもしれませんが、この佐藤=マーガレットには2.5次元っぽさがありますね。アニメのキャラクターと声優の声は緊密に一体化していて、その声優がキャラクターに扮して舞台上で歌う。それに匹敵する一体感を佐藤=マーガレットから感じます。

4. 和田彩花(スノウ)

和田彩花が放射する独特の透明感は、彼女の歌にもはっきり表れています。それがスノウという、その名前に象徴される無色の役柄と合わさって、舞台世界と観客の間に二重の透明な幕がかかっているように感じます。見る者は、和田とスノウの二人を通して、その向こうにある暗い世界を覗き見るのです。

観客 → 和田彩花 → スノウ → 舞台世界

和田は美術史を学んでいたとのことですが、LILIUM での彼女を見て、自分はマーク・ロスコという抽象画家の絵を思い出しました。見る者を異世界に吸い込む様な、絵が現実と別の世界との境界になっているような作品群があり、それが和田彩花と彼女が演じるスノウの姿に重なると思うのです。

5. 田村芽実マリーゴールド

自分はこれまで田村芽実という人のことをほとんど知らなかったので彼女が普段どういう感じなのかわからないのですが、LILIUM や繭期大夜会で歌う田村を見ると「憑依型」という言葉がこれほど似合う人はあまりいないのではないかと思わされます。

マリーゴールドという人格が田村芽実を呑み込んでしまっている。そして、その田村を呑み込んだマリーゴールドが観客をも呑み込もうとしているかのようで、彼女の歌からはそんな恐怖すら感じます。

マリーゴールド田村芽実)⊃ 観客

アンジュルムのステージ映像で「高校1年の田村芽実です♡」などと挨拶している姿を見ても、一瞬の隙をついて彼女の中からマリーゴールドが現れてくるのではないかと身構えるようになってしまいました。

6. 鞘師里保(リリー)

マリーゴールド田村芽実を呑み込んでいるのと真反対なのが鞘師里保とリリーの関係です。これはもう、鞘師がリリーを捻じ伏せて完全に呑み込んでいる。そのリリーを呑み込んだ鞘師が、観客に全力でぶつかってくるのです。

鞘師里保 ⊃ リリー)→ 観客

リリーというあれだけ壮絶な役柄に打ち勝ち、舞台の終盤では、ひょっとするとこれはリリーの物語ではなく、鞘師里保の物語なのではないかとさえ思わせる、圧倒的な支配力を感じます。

来月始まる黑世界では、舞台に現れるのがリリーのその後なのか、鞘師のその後なのか、今から楽しみでなりません。

おわりに

自分が LILIUM に引き込まれるきっかけとなったのは『TRUE OF VAMP』を初めて聴いた時でした。「何だかよくわからないけどとにかく凄い」というのが最初の感想で、そこから私の探究の旅が始まったのです。

和田、田村、鞘師の3人がそれぞれまったく違うアプローチで役柄を演じ、それらがぶつかり合うことで LILIUM の複雑な世界観が象徴的に表れる。素晴らしい歌唱です。

さて、黑世界に向けて予習を拡げたいところではあるのですが、LILIUM から抜け出せる時が来るのでしょうか…