ベビメタ七転八倒

ベビメタのブログだったのに最近は鞘師多め

鞘師里保の歌唱はリズムセクションである⑥

(この投稿は前5回からの続きです。よろしければ①〜⑤もご覧ください。)

 

7. 佐藤優樹がつなぐ世界

鞘師里保卒業後の2016年から2018年までの3年間は、モーニングの歌唱を担う新たな中核メンバーが一人、二人、三人と、ゆっくりではありますが着実に立ち上がっていく時期となりました。

その中で、いち早くモーニング楽曲の中心に歩み出て来たのは佐藤優樹だったと言えるでしょう。ハスキーでありながら鼻にかかった響きもあるニュアンス豊富な声質、16ビートを正確に刻めるリズム感、そして音の歌い出しと終わりが決して緩まない歌唱スタイル。そんな彼女の声が楽曲の要所々々に彩りを加え、それが積み重なることで楽曲全体の印象がいつの間にか決まっていくような、そんな役割を徐々に果たし始めます。

『泡沫サタデーナイト』(2016年5月リリース)には、「サ、タ、デ、ナイッ」、「お、ど、り、たいっ」、「と、ま、ら、ないっ」、と歌う箇所がたくさんあり、すべて「あいっ」で韻を踏んでいることから強い印象が残ります。この「あいっ」を歌う佐藤優樹の声が素晴らしくよく通っていて、『泡沫サタデーナイト』の魅力の半分以上がここにあるとさえ言えると感じます。

この曲は幸いにもレコーディング映像がたくさん残っているので、例えば小田さくら佐藤優樹の歌唱を聴き比べることができるのですが、おそらく歌の技術では小田の方が上であるにも関わらず、レコーディングが進むうちに楽曲の要になる部分を佐藤が自分のものにしていってしまう様子が窺えて大変興味深いです。

原典が見つからなくなってしまったので不正確ですが、この頃に佐藤は「鞘師里保の卒業であいた穴を埋めるのではなく、穴はそのままにしてそこから何かが生まれてくるのを待とうと思う」という意味の発言をインタビューでしていたと思います。佐藤自身が率先してその「生まれてくる何か」になり始めた。2016年はそういう時期だったのでしょう。

8. 小田さくらの進化

このブログを読んで下さっている皆さんは、私が小田さくらに対して冷淡だと感じていらっしゃるかも知れません。「歌姫」としてモーニングに加入し、早くからライブステージ上でグループ全体の歌唱を支える大きな役割を小田が果たし続けていることは明らかです。しかし、2016年までの楽曲の音源をどれだけ聴き込んでも、私には小田が楽曲表現の中心にいるようにはどうしても聴こえないのです。

それが大きく変わる時がとうとうやって来ました。2017年3月リリースの『ジェラシー ジェラシー』です。

それまでの小田さくらの歌唱の特長と言えば、その柔らかく伸びやかな声質がまず挙げられます。しかしその裏返しとして、発声の立ち上がりに時間がかかること、そして音の終わりにビブラートがかかることによって、プラチナ期が終わった2012年以降のモーニング楽曲のビート重視でシャープな曲調とは整合していなかったと感じます。

ところがこの『ジェラシー ジェラシー』から、小田の歌唱にアタックの強さや声のオンオフのメリハリが加わってきます。その変化はソロ部分でもよくわかるのですが、もっと重要な変化をユニゾンの中で聴き取ることができます。この曲のサビの部分は、メンバーが二つに分かれて掛け合いの形で進みますが、その一方を佐藤優樹が、もう一方を小田さくらがリードしています。

「綺麗になりたい」(小田チーム)

「もてはやされたい」(佐藤チーム)

「私の努力よ」(小田チーム)

「誰か讃えて」(佐藤チーム)

それまではユニゾンだと埋もれがちだった小田の声が、ここではチームの歌唱の芯になっている。そして、佐藤の声と対をなすことによって、グループ全体の歌唱に厚みと説得力が増したと感じます。

(※ 投稿後に気付いたのですが、ここで私が感想を書いた音源は2017年12月リリースの「Album Version」でした。同年3月にリリースされたオリジナルのシングルでは、佐藤優樹が録音に参加していません。この2つのバージョンを聴き比べるのも味わい深いです。)

『ジェラシー ジェラシー』と同じシングルには『BRAND NEW MORNING』が収められていますが、この時期まさにモーニングの新しい時代が始まろうとしていたと言えるのではないでしょうか。

9. 譜久村聖の攻撃参加による新体制の確立

譜久村聖の歌とダンス両面での献身的なパフォーマンスは既に2014年頃から顕著に表れていました。野球に例えれば、内外野を問わず全力で走り回って守備の穴をことごとく塞いでくれる。有名な「譜久村ダッシュ」は、単に道重さゆみ卒業公演で起きた一回性の出来事というより、彼女が毎回見せ続けている姿があるからこそ、その象徴として語り継がれているのだと思います。

その譜久村がいよいよ攻撃側に本格参戦し始めたと感じるのが、2018年10月リリースの『自由な国だから』です。小田さくら譜久村聖佐藤優樹の3人の声が次々と入れ替わりながら混ざり合っていく構成が素晴らしい。他のメンバーの声も加わっていますが、3人の歌割は次のような感じです。

まずは冒頭の部分。

「束縛はさせない、私は私よ(小田)」「いつまでもここには、いられない、so いられない(譜久村)」「形あるものなら、いつかは壊れるから(佐藤)」「いつまでも未練は、抱かない、so 抱かない…(小田、譜久村)」

次に中盤。

「自由な国だから、私が選ぶよ(譜久村)」「いいわけなら、聞かない、いさぎよく、so いさぎよく(佐藤)」「あの時のセリフと、ニュアンス、全然違うね(小田)」「恥ずかしく、ないのが、不思議だよ、ah 不思議だよ…(譜久村、佐藤)

そして後半部分。

「束縛はさせない、私は私よ(佐藤)」「いつまでも、ここには、いられない、so いられない(小田)」「形ある物なら、いつかは壊れるから(譜久村)」「いつまでも未練は、抱かない、so 抱かない…(佐藤、小田)」

3人がローテーションしながら歌っていくのですが、それぞれの歌声の特徴を残しながらも、この楽曲をどう歌うかの意思統一が3人の間で取れていて、以前のセンターレスの時期にはなかった強い説得力を歌唱に感じます。2016年から約3年をかけて、とうとうモーニングの新たな歌唱の体制がここに確立されたのだと私は思います。

かつての鞘師里保一強に対し、今回は3人の声が重なることで厚みが出ました。歌詞の発音もかつての音節単位で細かく切る形ではなく、ひと回り大きな括りで歌うことによって声に様々なニュアンスを入れられるようになっていると思います。過去を再現するのではない、新しいモーニング歌唱の誕生です。

10. '20の高揚と将来

2020年1月リリースの『KOKORO&KARADA』は、新しいモーニング歌唱の魅力を余すところなく伝える楽曲だと思います。リードする譜久村、佐藤、小田の充実した歌唱は勿論のこと、他のメンバーもスキルを上げていて、曲全体を通してほとんど緩んだところがありません。

「'14 が最高だったけれど、'20 もそれに劣らず素晴らしい」という声を少なからず目にしますが、私もまったく同意見です。彼女達は今後更にどのような歌を聴かせてくれるのか、楽しみでなりません。

さて、最後に一つだけ書き添えます。今の譜久村・佐藤・小田体制の次にモーニングの歌唱をリードするのは一体誰でしょうか。未来のことなど誰にもわかりませんが、私がいま最も注目しているのは山﨑愛生です。

今回ブログを書くにあたってモーニングの楽曲音源を数え切れないほど聴きましたが、山﨑の特徴ある声質と思い切りの良い発声は、12期以降のメンバーの中で突出しているのではないでしょうか。5年後に誰が歌唱をリードしていて、その歌唱を活かすどのような楽曲が生まれてくるのか、楽しみにしていきたいと思います。

・・・

ずいぶん長くなってしまいましたが、6回にわたったモーニングの歌唱に関する投稿はこれで終わりです。読んでくださった皆さん、お付き合いいただきありがとうございました。

奇しくも今日は自分が鞘師里保に出会ってからちょうど一年。この1年間のモーニング研究の蓄積をすべて吐き出した感じです。今後また何か材料が出てきたらブログに書きたいと思います。それではまた。