ベビメタ七転八倒

ベビメタのブログだったのに最近は鞘師多め

道重さゆみという歌い手

前回まで投稿していた「鞘師里保の歌唱はリズムセクションである」の中でうまくカバーできなかった話題があるのですが、やはりどうしても書いておきたいので補足させてください。その話題とは道重さゆみについてです。

歌が下手なことを自虐ネタにしていた道重は、オーディションを受けた時には歌に音程があることを知らなかった、という驚愕の発言まで残しています。オーディション合宿での菅井英憲によるボイストレーニングの映像はモーニングの歴史の中でも有数の感動を呼ぶ場面だと思いますが、道重と菅井の努力に胸を打たれるのと同時に、あれだけ歌えない彼女を合格させたつんくや運営陣の慧眼にも驚いてしまいます。

実際のところ、ロングトーンが苦手で音程をうまく支えられないというのが道重さゆみの歌唱上の短所であったことは明らかです。しかし、彼女が参加している楽曲を聴いていて徐々にわかってきたのは、彼女の歌はリズムが非常に正確だということです。'14のメンバーの中で言えば鞘師里保に次ぐリズム感で、それ以外のメンバーとは大きな差があります。

道重の歌唱で非常に特徴的なのは発声の終わりをキュッと上げることで、ユニゾンの中であってもあの声が聞こえることで彼女が歌唱に加わっているのがすぐにわかります。歌い終わりまで声を保つのが苦手なために編み出した歌唱法なのだろうと思いますが、声を止めるタイミングを正確に取れない者があの歌い方をしたら楽曲全体が崩れてしまうことでしょう。

『彼と一緒にお店がしたい』(2011年9月リリース)は道重さゆみにしか歌いこなせないユニークな楽曲ですが、制作者が彼女の特長を活かす術を心得ていれば道重は優れた歌い手になり得ることを証明している曲だと思います。

鞘師里保の歌唱は、その正確で歯切れの良いビート感からリズムセクションのようであると前回までの投稿で述べました。その特徴が最も楽曲に表れたのは2013年後半から2014年にかけてですが、その時期に鞘師と一緒にクオリティの高いビートを刻んでいたのが道重さゆみでした。

道重卒業後の2015年にモーニングの楽曲が大きく変化したことを前の投稿で書きましたが、その変化の大きな原因の一つが彼女の卒業だったのではないかと自分は考えています。引き続き鞘師がいるとは言え、楽曲をリードする役割を常に鞘師一人だけに負わせる訳にはいかない。そう考えての低速化やセンターレス化であった可能性は高いのではないでしょうか。

歌唱から姿を消すことで逆に大きな存在感を示した道重さゆみ。私は彼女のベストパフォーマンスは卒業公演の『見返り美人』だと思っています。自分は一言も歌わずに歩く姿だけで横浜アリーナの大観衆を引き込んだ、誰にでもできる訳ではない道重さゆみならではの「歌」でした。