ベビメタ七転八倒

ベビメタのブログだったのに最近は鞘師多め

比較ライブ論(3)

このところ「MCなし」の意味について考えています。きっかけは、氣志團のライブを見る機会があったため。お前はロスが嵩じてとうとう氣志團まで行ってしまったのか、と言われそうですが、これはまったく偶然に訪れた機会でした。

氣志團のステージ上での構成は、実はベビメタと似ています。バックバンドは4人で、ギター×2、ベース、ドラム。ドラムはツーバス。メインボーカルがいて、その横や後ろでダンスをする人が数人いる。決まった振り付けで動きながら歌い踊るという形です。パフォーマンスの中身は勿論ベビメタと全然違うのですが。

さて、私が見た氣志團のステージは少し変わった状況でした。氣志團のファンだという人はおそらく観客の1割以下で、大半はテレビで見たことがあるという程度。中には氣志團なんか見たくないよという人も1割くらいはいただろうと思います。まったくのアウェー状態ですね。

案の定、最初の数曲はあまり盛り上がりません。コール&レスポンスを促すような場面もありますが、ほとんど反応が無い。ところが、そんな状況から会場の雰囲気を変えたのがMCでした。最初は観客をイジる。次は自虐ネタで自分達をイジる。最後は、観客に身近な話題でステージと観客の一体感を作り出すことに成功。そこからの演奏は大いに盛り上がりました。

そういえば、去年友人に誘われて西野カナの東京ドーム公演に行った時にこんなことがありました。ステージの中盤で、観客がその日にSNSで投稿した文章を西野カナが読み上げ、書いた本人にその場で手を挙げてもらうというコーナーがあったのです。これは毎回行われているようですが、なかなかに盛り上がりました。自分のような部外者でさえステージとの距離が縮まったような気持ちになりました。

ロック系やポップ系の音楽の場合、演奏者と観客が一体感を持てることが重要で、そのために演奏者側がいろいろ工夫する。その手段の一つがMCなのだとわかってきました。では、首尾一貫して「MCなし」を続けているベビメタのライブを一体どのように捉えれば良いのでしょうか。

ベビメタがアウェーをひっくり返したステージと言えば、ソニスフィアがその最たるものであることは明らかです。すでに数えきれないほど見た、ソニスフィアでの全曲が繋ぎ合わされたファンカム動画を改めてじっくりと見てみました。

この日のセトリは、BMD〜ギミチョコ〜CMIYC〜メギツネ〜IDZ の5曲でした。始めから1曲ごとに盛り上がりが高まって行き、最後のIDZで頂点に達した訳ですが、単純に直線的に昇って行ったのではなく、何か観客の心を掴んだ瞬間があったのではないか。そんなことを考えていると、「おっ!これは!」という箇所を見つけたのです。

その箇所とは、CMIYCで神バンドのソロが終わり、SU、YUI、MOAの3人が「ハイ!、ハイ!、ハイ!、ハイ!」と叫びながら上手側から出てくる、その最初の「ハイ!」の瞬間です。ただ単に合いの手を入れるのとは全然違う、全力を振り絞って会場の一番遠くまで届かせようとするような、すごく力強い声なのです。この瞬間に観客の意識がステージの3人に引き込まれたように感じます。

伏線が、その前のギミチョコにありました。大半が初見のイギリスの観客に和製英語の歌詞をいきなり歌わせるという、勇気溢れるパフォーマンスというよりもほとんど暴挙。しかし、それによって3人が観客に強く意識を向けていることは伝わったでしょう。そして、CMIYCの「ハイ!」で観客の心が反射的に3人に向けて動く。ステージと観客の間に強い一体感が生まれた瞬間だと思うのです。

ベビメタがスタート当初からライブでMCをやらなかったのには、色々理由があったことでしょう。さらに海外では、もはや喋ろうとしても日本語ではなかなか伝わらない。そんな中で、曲の演奏の中だけで観客と気持ちを通じさせる方法を編み出してきたのがベビメタのライブなのですね。

ベビメタの3人はインタビューで「音楽は本当に国境を超えるんだと思いました」という意味のことを何度か言っています。でも、それはただ音楽だから超えている訳ではなく、彼女たち3人だからこそ超えさせることができているのでしょう。