今さらですが、EDMとは? ③
前回の投稿(「今さらですが、EDMとは? ②」)では、モーニング娘。の楽曲でEDM音が目立ち始めた2003年から2007年について書きました。今回取り上げるのは2009年、プラチナ期の真っ只中でEDM音が支配的な楽曲が連続して出現した時期からです。
2. "プラチナEDM" の確立と展開
2009年2月リリースのシングルでA面曲に入った『泣いちゃうかも』(編曲:大久保薫)は、このあと連続して押し寄せるEDM調の楽曲群の先鋒となりました。
インストの音の大半が打ち込みで、高音から低音まで様々な音が重なっている中で、特に低音部が軽快に動くことによって曲のリズムとビート感を巧みに支配しています。そこに影のあるウェットなボーカルが乗る形が、このあと続くプラチナ期楽曲の定番となっていきました。
『泣いちゃうかも』はまた、大久保薫がモーニングのシングル曲を初めて編曲した作品であることも注目ポイントです。これ以前、大久保薫は Berryz工房、GAM、℃-ute、後藤真希などのハロプロ楽曲を10数曲手がけていましたが、モーニングではアルバム曲3曲に参加していたのみで、これらの楽曲の曲調も『泣いちゃうかも』とはかなり異なっていました。ところがこの曲以降、彼はモーニング楽曲のアレンジャー兼プログラマーとして中心的な存在となり、EDM色の強化を推し進める役割を担うことになります。
続いて2009年2枚目のシングルは、5月リリースの『しょうがない 夢追い人』。編曲は前回の投稿で注目した平田祥一郎です。インスト、ボーカルともに音の構造は『泣いちゃうかも』とほぼ共通していると言えるでしょう。
そして、この年3枚目のシングル(8月リリース)A面曲『なんちゃって恋愛』(編曲:大久保薫)も同じ曲調が続き、この3連打でプラチナ期特有のEDM楽曲スタイルが確立したと言えると思います。
2009年最後のシングル(10月リリース)はA面曲が『気まぐれプリンセス』(編曲:大久保薫)、カップリング曲が『愛して愛して後一分』(編曲:平田祥一郎)ですが、このあたりから曲調に新しい展開が加わっていきます。それまでの3曲がひたすらウェットで内向的な印象なのに対して、徐々に積極的に外に攻める雰囲気が出てきて、それに合わせて曲の速度(BPM)が上がりはじめました。『泣いちゃうかも』がBPM122程度なのに対して、『気まぐれプリンセス』は136くらいで、それだけでも楽曲が与える印象はずいぶん変わります。
翌2010年に入ると少し違う曲調の楽曲がしばらく続きますが、3枚目のシングル(11月リリース)で『女と男のララバイゲーム』(編曲:平田祥一郎)、『愛され過ぎることはないのよ』(編曲:大久保薫)が出ました。BPMはさらに上がって140を突破しています。
ユーロビート調の『愛され過ぎることはないのよ』は、インストの音色がその後の楽曲に向けて一歩踏み出した感じを受けます。それまでは打ち込みであってもアナログ楽器を模した音が要所で使われている印象が強いのですが、ここではデジタルな音が敷き詰められている感じがします。翌月にリリースされたアルバムに収録された『Fantasyが始まる』(編曲:大久保薫)も同様で、9期が加入する直前のこの時期にゴリゴリにエレクトロな音が前面に出てきました。
2011年4月リリース、9期デビューシングルのカップリング曲『もっと愛してほしいの』(編曲:大久保薫)はBPMが156に達し、この時期の楽曲の中では『まじですかスカ!』のようなコミカルな曲を除いた最速を記録しました。歌メロは2009年以来のウェットな路線ですが、BPMが速いのと9期の幼い声が加わったことで、曲から受ける印象はそれまでとかなり違います。
そして2ヶ月後の6月に『Only you』(編曲:大久保薫)が出ます。自分はハロプロ楽曲を初めて聴いたのが ”ひなフェス2019” の『Only you』と『One・Two・Three』のメドレーで、その後も数え切れないほど聴き返しているために、もはやこの曲を客観的に語るのは難しいのですが、それでもやはり『Only you』はモーニングの楽曲をさらに一歩前進させた重要な作品だと思います。
次回は、この『Only you』から『恋愛ハンター』(編曲:平田祥一郎)へと展開していく様子を取り上げていきます。