今さらですが、EDMとは? ②
前回の投稿(「今さらですが、EDMとは? ①」)では、ハロプロの楽曲で聴かれるいわゆるEDM的な音はユーロビートとハードスタイルの2つのジャンルから来ていること、そして、ハードスタイルの音が鳴っている楽曲には「(A)ハードスタイルと共通の音がインストに使われている楽曲」と「(B)ボーカルを含めた曲全体の構造がハードスタイル的に組み立てられている楽曲」の2種類があるということを書きました。
今回からは、モーニング娘。の歴史の中で、初めてEDM的な音が使われ始めた時から (A)の楽曲スタイルが確立されていく様子を辿っていこうと思います。
1. 黎明期:EDM音の浮上
モーニング楽曲の中にデジタルな打ち込み音が入り始めたのがいつ頃かは追いきれていないのですが、EDM音がはっきり強調されるようになった最初のシングル曲は、2003年11月リリースの『Go Girl 〜恋のヴィクトリー〜』(編曲:鈴木Daichi秀行)ではないでしょうか。
曲全体に流れるピコピコしたシンセ音がユーロビート的な軽快さで、Bメロ(MVの1分07秒から)に入ると低音ビートの4拍頭打ちがハードスタイル風味を効かせています。プラチナ期以降の楽曲に耳が慣れているといたって普通の音に聴こえますが、デビュー当初から発表順に曲を聴いてくると、この曲に来てハッとします。
以前の投稿(「モーニング楽曲のBPM全史①」)の中で、モーニング楽曲の速度(BPM)は2003年11月頃から速い曲と遅い曲にくっきり分かれ始めたと書きました。『Go Girl 〜恋のヴィクトリー〜』はその中の”速い曲”第1号にあたります。この時期のモーニングは6期が加入して間もない15人体制。大人数グループの溌剌としたエネルギーを表現するのに高スピードとEDM音が選択されたのかもしれませんね。
(この楽曲がA面に入ったシングルアルバムのカップリング曲が、いま映画「あの頃。」で注目を集めている『恋ING』でした。映画のはじめの方にCDショップのシーンがありましたが、その店内に『Go Girl 〜恋のヴィクトリー〜』のポスターがしっかり掲示されていて、ああこういう時代の曲だったのだなと感じ入りました…)
さて、この曲に続いてモーニングの楽曲が一気にEDMに向かったかというと、そうではありませんでした。次に現れたEDM音が目立つ楽曲は、2年半後の2006年6月にリリースされた『Ambitious! 野心的でいいじゃん』(編曲:湯浅公一)です。
ロックサウンドにEDMの低音ビートが合わさり、その上にストリングス音が乗って、疾走感と重さが同居した聴き心地の良いインストですね。
その5ヶ月後、モーニングのEDM史で重要な位置を占める(と私が勝手に思っている)楽曲が登場します。それは、2006年11月リリースの『踊れ!モーニングカレー』(編曲:平田祥一郎)。カップリング曲のため残念ながらMVが無いので、昨年の”踊ってみた”動画を貼っておきます。
編曲者の平田祥一郎は膨大な数のハロプロ楽曲に携わっている人ですが、モーニングのシングル曲を編曲したのは『踊れ!モーニングカレー』が初めてでした。曲の表面で踊るように流れるインド風(?)の音の下で、EDMの低音がしっかり鳴っています。しかも、この低音部は非常にシンプルでありながら、ビートを刻む役割と同時にユーロビート的な軽快さも表現していて、かなり入念に工夫された音だと思います。
後に『しょうがない 夢追い人』『恋愛ハンター』『ENDLESS SKY』『Are You Happy?』『LOVEぺディア』『純情エビデンス』などを送り出すことになる平田祥一郎ですが、さすが ”栴檀は双葉より芳し”。色物(?)な楽曲でも鮮やかな音作りに成功したことが、その後の展開につながったのではないかと勝手に想像しています。
(平田祥一郎が参加し始めた最初期から2006年までのハロプロ楽曲の中で、『踊れ!モーニングカレー』につながっていくビートを感じられる曲を選んでプレイリストを作ってみました。下の方に書いておきますので、よろしければご覧ください。)
時計の針を進めます。翌2007年の4月にリリースされた『Hand made CITY』(編曲:鈴木Daichi秀行)では、ロックギターがバリバリ鳴りながらユーロビートが合体されています。『Ambitious! 野心的でいいじゃん』の前へ進む疾走感とは少し違う、縦ノリを強調した楽曲ですね。この曲もMVが無いので、インストが聴こえづらいですが 2010年秋ツアーの公式動画を貼っておきます。
2007年にはもう1曲、7月に『女に 幸あれ』(編曲:江上浩太郎)が出ました。前回の投稿(「今さらですが、EDMとは?①」)で紹介したように、インストはユーロビート一色でできあがっています。これまで紹介した楽曲のインストはEDM音と他ジャンルの音が重ね合わされた形でしたので、ここまでEDM音を徹底したのはこれが初めてでしょう。
さて、このあと翌2008年の終わりまでEDM音は影を潜めます。と言うより、2008年は楽曲リリース自体が少ない年でした。そして2009年、モーニングのEDMは大きな展開を見せることになります。その話は次回の投稿で…
【おまけ】
『踊れ!モーニングカレー』をアレンジした平田祥一郎がそれまでに編曲していたハロプロ楽曲の中から、曲調が近いものを10曲リストアップしてみました。名付けて「The Road to モーニングカレー」。リリース時期の順に並べています。
1. 後藤真希『長電話』(2003年6月)
2. カントリー娘。に紺野と藤本『先輩 〜LOVE AGAIN〜』(2003年11月)
6. W『デコボコセブンティーン』(2005年3月)
7. Berryz工房『なんちゅう恋をやってるぅ YOU KNOW?』(2005年6月)
8. DEF.DIVA『好きすぎて バカみたい』(2005年10月)
9. 美勇伝『愛〜スイートルーム〜』(2005年10月)
今さらですが、EDMとは? ①
モーニング娘。をはじめハロプロの楽曲にEDMが多いというのは広く知られたことだと思いますが、ところでそもそも「EDM」というのはどういう音楽なのでしょうか。自分もブログの中でEDMという言葉を使っていますが、そもそも自分がEDMという言葉を知ったのはモーニングの曲を聴くようになってからですし、ハロプロ以外の音楽でEDMというものを意識して聴いたことはほぼありませんでした。
さすがにこれではいけないだろうと思い立ち、EDMについて少し調べてみることにしました。まずは Wikipedia を検索すると、EDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)の説明は次のように始まっています。
エレクトロニック・ダンス・ミュージック(英: Electronic dance music)とは、シンセサイザーやシーケンサーを用い、主にクラブないしは音楽を中心に据えるエンターテインメントの場において、その場の人々を踊らせるという目的の元作られたダンスミュージックのことである。EDMとも呼ばれる。
曲はデスクトップミュージック (DTM) として制作されることが多い。またDJによって再生されるために制作する事が多いため、音楽家は作曲・プロデュース業だけではなくDJ業も兼ねていることが多い。
また、さらに調べると、EDMには様々なジャンルがあるということもわかってきました。エレクトロ、ユーロビート、テクノ、ハードスタイル、ハウスミュージック、トランス、ドラムンベース、ダブステップ、プロステップ、等々。これらのジャンルが更にサブジャンルに分かれているようなので、ヘビーメタル並みにバラエティに富んだ世界ですね。
それぞれのジャンルで代表的とされているようなアーティストの音楽を片っ端から聴いてみましたが、そうやってわかったのは、ハロプロの楽曲で聴く音に近い要素を持っているのは、たくさんあるジャンルの中でもユーロビートとハードスタイルの2つに限られるということです。
ユーロビートの方は馴染みのある人が多いと思います。'80年代中頃のダンスミュージックといえばこれでした。BABYMETALが2019年の3rdアルバムに収録した『DA DA DANCE』がユーロビートをオマージュして話題になりましたね。日本では今も根強いファンがいるようで、コンピレーションアルバムのティーザー動画を見つけたので貼っておきます。
モーニング娘。でユーロビートが思い切り前面に出ている楽曲と言えば、何と言っても『女に 幸あれ』(編曲:江上浩太郎)でしょう。高橋愛がリーダーに就任した直後の2007年7月リリースで、プラチナ期はユーロビートで幕を開けたのでした。
さて、それではもう一つのハードスタイルとはどのような音楽でしょうか。これも Wikipedia によると、2000年前後にオランダで始まってヨーロッパ各国に広がっていったスタイルのようです。オランダ出身のハードスタイルDJである Atmozfears のライブ映像を貼りますので、最初の5分間くらいだけで良いので聴いて見てください。
この音を聴いて、「あー、これこれ!」と思いませんでしたか? ハロプロ楽曲のあれこれの中で鳴っている音と共通のパーツが散りばめられている感じがします。
このようなハードスタイルの音楽を暫く聴き込んだ上でハロプロ楽曲に戻ると、いろいろなことに気づくようになりました。中でも大きな点は、いわゆるEDM的な楽曲には「(A) ハードスタイルと共通の音がインストに使われている楽曲」と、「(B) ボーカルを含めた曲全体の構造がハードスタイル的に組み立てられている楽曲」の2種類があるということです。
この2種類の違いを示してみましょう。(A)の例として2009年のモーニング楽曲『なんちゃって恋愛』(編曲:大久保薫)をまず聴いてみてください。
ハードスタイルで聴かれるドラムやキーボード的な音色が曲全体を通して鳴り続けています。ただ、この楽曲の歌メロは歌謡曲調で、バックのインストも”歌謡曲の伴奏”の形をしています。音色がハードスタイル的である必然性はなく、もっと別の楽器や音色でも十分に成立する音楽でしょう。
次に(B)の例で、2013年の『君さえ居れば何も要らない』(編曲:平田祥一郎)です。
この曲でまず感じるのは、歌と伴奏という分かれ方をしていないことです。むしろ、インストが形作る構造の中にボーカルが組み込まれていて、歌も楽曲を構成する材料の一つになっている感じがします。インストをアナログ楽器で編曲し直すことはできるでしょうが、そうなればもうまったく別の楽曲になってしまうでしょう。
(A)のタイプの楽曲はハロプロ全体に多数存在していますが、(B)のタイプは2012年から2014年のモーニングでしか見られない特殊な楽曲群であることもわかってきました(わずかな例外がありますが)。
次回からの投稿では、時間の経過とともにモーニングのEDM楽曲がどのように移り変わってきたか、(B)タイプの曲がモーニング楽曲の歴史の中でどのようなインパクトを持っているのか、などについて書いていこうと思います。
ハロプロのロックナンバー15選 ③
前回までで私の仮想コンピレーションアルバムの1曲目から9曲目を紹介しました。今回は最後の15曲目までを語っていきます。まずは『カタオモイ。』(Buono!)に続くこの曲から。
10. Independent Girl 〜 独立女子であるために(Buono!)
自分が Buono! のファンになったきっかけがこの曲です。2017年横浜アリーナでの最終コンサートの映像を見て、問答無用の格好良さに目と耳を奪われてしまいました。
まずイントロのギターリフが、どこか聞き覚えのあるような音でありながら、この曲が只者でないことを強烈にアピールします。ライブ会場でこの音が鳴り始めるのを聴いたらさぞ高揚したことでしょう。
そして歌う三人の厳しい表情です。中でも嗣永桃子の目の鋭さが強く印象に残りました。当時ハロプロのことをほとんど知らなかった私は、鈴木愛理の名前は辛うじて知っていたものの、嗣永桃子と夏焼雅は名前の読み方すらわからない状態でした。なので、最初に刷り込まれた「独立女子」での嗣永と普段の”ももち”とのギャップに、その後仰天することとなります…
なぜ自分は行かなかったのかと激しく後悔するライブというものが自分にもいくつかありますが、横浜アリーナでの Buono! ラストコンサートはまさにそれです。当時のLVの映像をそのまま映画館で流すイベントとかできないでしょうか。
11. 次の角を曲がれ(℃-ute)
作詞・作曲:中島卓偉、編曲:鈴木Daichi秀行
自分は音楽を聴く時に歌詞のことをほとんど気にしていません。それは日本語でも外国語でも一緒で、普段はボーカルも楽器と同じ「音」として聴いているのだと思います。ところが、この『次の角を曲がれ』の場合は、初めて聴いた時になぜか歌詞が真っ先に頭に入ってきたのです。
本当に素晴らしい歌詞なので、一部を引用してみます。
この道を行くことが 苦しくなってきたら
次の角を曲がれどれだけ歩いても 答えが出ないのなら
次の角を曲がれ真っ直ぐに進むこと それだけがすべてじゃない
横にだって斜めにだって 道はある悔しくって 悔しくって ぶち壊したい夜があっても
どこまでも どこまでも ひとりぼっちの夜が来ても
その先を曲がったら 見たこともない星空が広がってるさ
「道は曲がりくねっているけれど進んでいこう」とか「時には後戻りも必要だ」という歌はたくさんあると思うのですが、「横に曲がれ」と言う歌は少ないのではないでしょうか。しかも「次の角を」という言葉が絶妙で、歩いている相手の肩を後ろからそっと押して横を向かせるような、ふとしたきっかけを与えてくれる情景が目に浮かびます。
作詞・作曲の中島卓偉がギター一本で歌った動画があります。こちらも素晴らしいのでぜひお聴きください。(31分34秒から)
作詞:児玉雨子、作曲:星部ショウ、編曲:Yocke
13期が加入した2017年は、その前後には見られない曲調の楽曲がモーニング娘。にいくつも現れた面白い年でした。『BRAND NEW MORNING』、『若いんだし!』、そしてこの『弩級のゴーサイン』。ひたすら明るく伸びやかな歌を聴ける珍しい曲です。
児玉雨子作詞・星部ショウ作曲の作品はハロプロに多数ありますが、モーニング娘。では『五線譜のたすき』と『弩級のゴーサイン』の2曲だけのようです。また、『五線譜のたすき』の方はテレビ番組のエンディングテーマとして作られた特殊な楽曲ですので、『弩級のゴーサイン』は実質的にモーニング娘。で唯一の児玉・星部曲だと言えるでしょう。
2019年の春ツアーでBEYOOOOONDSがこの曲をカバーした映像があります。もともとビヨの曲だったのではないかと思うほどフィットしていて驚いたのですが、児玉作詞・星部作曲であればそう感じても不思議ではないのかなと納得しました。
13. I surrender 愛されど愛(モーニング娘。'19)
こちらは『弩級のゴーサイン』とは打って変わり、「ザ・つんく」「ザ・モーニング娘。」としか言いようのない楽曲で、この2曲の対比が面白いです。曲名も歌詞も歌メロも譜割りも、何もかもがモーニングっぽいですね。
特に歌の刻みの細かさが特徴的です。しばらく前に投稿した記事(「鞘師里保の歌唱はリズムセクションである②」)で『One・Two・Three』には1拍を超えて音が伸ばされるのが14回しかないと書きましたが、『I surrender 愛されど愛』ではたった2回。しかも1.5拍伸ばしているだけという徹底ぶりです。頭から終わりまで高速の細かく強いビートが貫徹され、聴く側はいやでも乗せられてしまいます。
2019年の ROCK IN JAPAN FESTIVAL では、この曲は盛り上がるからというメンバーの強い希望でセットリストに無理やり追加し、その結果MCの時間が限りなくゼロに近くなったというエピソードもありました。
14. DEEP MIND(Buono!)
作詞:おのりく、作曲・編曲:AKIRASTAR
いよいよラストスパート。最後は Buono! の曲を2つ続けます。まずは、人気曲『初恋サイダー』とのダブルA面シングルに収録されている『DEEP MIND』。『初恋サイダー』のポップな明るさとは対照的に、タイトル通りディープで力強い曲調と歌声が印象的です。
素人の推測ですが、この曲は歌うのに相当体力が必要なのではないでしょうか。特にサビの部分で「絶対解ける 謎の鍵を探そう」「難攻不落な 不安襲ってきても」と歌うところは、1オクターブの下降と上昇を2回繰り返した直後に高音のロングトーンという大変な展開を二度繰り返します。しかも、ラストの3回目のサビではこのパターンを連続してもう一度繰り返すという鬼のような構成で、この曲を聴くたびに「お疲れ様」と声を掛けたくなります。
15. ゴール(Buono!)
作詞:AKIRASTAR・岩里祐穂、作曲:AKIRASTAR、編曲:井上慎二郎・AKIRASTAR
今回の仮想コンピレーションを思い立った時に、最後の曲は『ゴール』にしようとすぐに決めました。横浜アリーナの最終コンサートで、アンコール前の本編ラストに演奏された曲で、センターステージの回転する舞台がゆっくりと下降していく光景が脳裏に浮かびます。
リズムを刻むギターの音だけが鳴り始め、そこに歌が乗っていく導入部分の静謐さ。そして、アルバム音源では最後がフェードアウトで終わっていて、余韻が心に残ります。
この曲は2ndアルバム「Buono!2」に収録されているのですが、こんなにも「最後」にふさわしい楽曲が早い時期に作られていたのが不思議な気がします。MVが無いのが残念ですが、ぜひ聴いていただきたい名曲です。
さて、以上でハロプロでロックサウンドを楽しめる楽曲のコンピレーション15曲を語り終えました。
読んでいただいた皆さん、ありがとうございました!
ハロプロのロックナンバー15選 ②
前回の投稿では3曲目までを書きました。『CHOICE & CHANCE』『ドンデンガエシ』『私を創るのは私』とエネルギー量の多い曲が続いたので、ここで少し雰囲気を変えましょう。
鈴木愛理と、℃-uteのロック番長・岡井千聖(個人の感想です)のデュエット。アコースティックギターの上で岡井がハスキーな声を張っているのがとても気持ち良い曲です。
この曲のオリジナルはシングルCD『会いたい 会いたい 会いたいな』のカップリング曲でしたが、翌年に板垣祐介が再アレンジした『悲しきヘブン(Single Version)』 がA面曲としてリリースされました。Single Version もオリジナルを損なわない良い楽曲ですが、今回の仮想コンピレーションの構成ではインストがシンプルなオリジナルの方を選びました。
残念ながらオリジナルにはMVが無いので、Single Version のリンクを貼っておきます。
℃-ute『悲しきヘブン(Single Version)』[The Grieving Heaven(Single Version)] (Promotion Ver.)
5. MY BOY(Buono!)
『悲しきヘブン』で鈴木愛理の歌声を聴いてしまうと、どうしても Buone! に行きたくなります。ということで、Buono! からの1曲目はこちらを。
ロックバンドをバックに歌うことを最大の特徴とした Buono! ですが、結成から暫くの間は明るいポップな歌メロの楽曲が大半でした。そんな中で出てきた『MY BOY』は、リリース当時の記事によると「激しいデジタルロック・サウンドを取り入れたアッパーチューン。これまでのポップなロック路線とはひと味違ったBuono!の新境地を楽しむことができ」(音楽ナタリー)とのことで、重めの路線に踏み込む転換点となった楽曲のようです。
1番のAメロで、2本のギターがリズムを刻む歪んだサウンドが左右のスピーカーから響く中、嗣永桃子、鈴木愛理、夏焼雅の順に伸びやかな声で歌っていくところが何とも気持ち良いです。
6. みかん(モーニング娘。)
作詞・作曲:つんく、編曲:鈴木Daichi秀行
モーニング娘。にはロック色の強い楽曲は決して多くありませんが、高橋愛がリーダーに就任した前後の2007年にロック調の曲がなぜか集中的に発生します。『悲しみトワイライト』、『Hand made CITY』、『Please! 自由の扉』、そしてこの『みかん』。翌年以降はR&BやEDMに急速に集中していくことになるので、この大きな転換の前夜とも言える時期に起きた面白い現象です。
『みかん』と言えばやはり2019年の ROCK IN JAPAN FESTIVAL ですね。巨大なメインステージに午前の一番手で初登場し、一曲目で「まぶしい朝に WOW WOW CHANCE」「何度も夢を見てきた あきらめたりは出来ない」と歌う、最高にロックな光景でした。
7. 情熱エクスタシー(℃-ute)
作詞・作曲・編曲:中村佳紀
ハロプロの素晴らしいところの一つに、インストの録音風景を動画で見せてくれるところがあります。ギター、ベース、ドラム、管弦楽器などいろいろあって、見ていて本当に楽しいのですが、これまでで最も興味深かったのがマーティー・フリードマンによる『情熱エクスタシー』の録音でした。
1本目↓ 33分12秒から
MUSIC+85 ℃-ute REC映像(ギター編)、チャオベッラMV解禁、カントリー・ガールズ「音楽用語編講座 」 、中島卓偉、安倍なつみ、アプガ(仮)ライブ映像他 (12/25/2015)
2本目↓ 30分59秒から
MUSIC+86 カウントダウンライブ映像(ラベンダー、ビタスイ、チャオベッラ、アプガ)、℃-ute REC映像(ギター編)、カントリー・ガールズ「用語編講座 」 他 (01/08/2016)
ギターソロ部分の録音だけでなく、バッキングの音の重ね合わせも含めて隅々まで見せてくれて大満足。あの分厚い音はこうやって作られていたんですね。
これだけ力を入れて作った楽曲でありながら、アルバム曲なのでMVが無いのが残念。初披露のライブ映像は「ハロ!ステ #146」で見ることができます。
8. 永久の歌(Berryz工房)
Berryz工房 『永久の歌』 ([Berryz Kobo(Song of Eternity])(Promotion Ver.)
コテコテの『情熱エクスタシー』で疲れた耳を休めるにはさわやかな曲を。自分はまだBerryz工房の楽曲をほとんど知らないのですが、たまたま見つけたこの曲が良かったのでリストに加えました。
Berryz工房にはなんとなく癖が強そうなイメージを勝手に持っていたのですが、『永久の歌』はスッキリとして力みのない作品でした。嗣永桃子と夏焼雅の声が含まれていることもあってか、全体に Buono! に似た印象も受けます。Berryz工房の最終シングルに収録されている曲で、だから「永久」なのですね。
9. カタオモイ。(Buono!)
作詞:川上夏季、作曲・編曲:AKIRASTAR
Berryz工房を通って、また Buono! に戻ってきました。Buono! の3rdアルバム『We are Buono!』に収録されているアルバム曲です。
この曲は、AメロとBメロが長調で、Aメロ前半が嗣永桃子→Aメロ後半が夏焼雅→Bメロが鈴木愛理と一人ずつ歌っていくのですが、サビに入った途端に短調に転じて三人のユニゾンになる。その瞬間が何とも美しくて、何回聴いてもこの転換のところで唸ってしまいます。
Buono! の素晴らしいところはいろいろあると思いますが、最大の魅力は嗣永・夏焼・鈴木の三人の声を合わせた時に生まれる何とも言えない音色なのではないでしょうか。三人でパートを分けてハモるのも綺麗なのですが、それよりもユニゾンの方が豊かな響きが生まれるように感じます。本当にいつまでも歌声を聴いていたくなる、奇跡のユニットでした。
さて、『カタオモイ。』前半の長調部分は『永久の歌』の明るさを引き継ぎ、後半の短調部分からは次の『Independent Girl 〜 独立女子であるために』へと繋がっていきます。続きは次回の投稿で。
ハロプロのロックナンバー15選 ①
最近になって「ハロー!プロジェクトの全曲から集めちゃいました!」というコンピレーションCDのシリーズがあることを知り、少しずつ聴き始めています。なかなか楽しいので自分も仮想コンピレーション(というかプレイリストですね)を作ってみたいと思ったのですが、問題は何を切り口にするかです。
インストの曲調を掘り下げて聴きこむのが好きな自分としては、たとえばブラック・ミュージックの色が濃い曲を選んでみようかとも考えたのですが、このジャンルはR&Bやファンク、ディスコ等々のいろいろな音楽が絡み合っていて自分にはまだまだハードルが高い。そこでジャンルを変えて、ロックサウンドがしっかり鳴っている楽曲を集めてCD1枚の構成を作ってみることにしました。
自分はBABYMETALから鞘師経由でハロプロに辿り着いた身ですので、そもそもラウド系のロック音楽には馴染みがありますし、ハロプロで最初に惹きこまれたのが Buono! だったという経緯もあるので、結構自分らしい切り口かなと思います。
1曲毎のコメントはゆっくり書いていきますが、まずは自分が選んだ15曲と仮想アルバムの曲順は次の通りです。
1. CHOICE & CHANCE(Juice=Juice)
2. ドンデンガエシ(アンジュルム)
3. 私を創るのは私(アンジュルム)
5. MY BOY(Buono!)
6. みかん(モーニング娘。)
7. 情熱エクスタシー(℃-ute)
8. 永久の歌(Berryz工房)
9. カタオモイ。(Buono!)
10. Independent Girl 〜 独立女子であるために(Buono!)
11. 次の角を曲がれ(℃-ute)
13. I surrender 愛されど愛(モーニング娘。'19)
14. Deep Mind(Buono!)
15. ゴール(Buono!)
全部で1時間4分。結構うまくコンパクトに収められたかなと自画自賛しています。とは言っても全曲続けて聴くのはなかなか体力がいりますが。
それではここから1曲ずつ語っていきます。
1. CHOICE & CHANCE(Juice=Juice)
作詞・作曲:星部ショウ、編曲:平田祥一朗
Juice=Juice『CHOICE & CHANCE』(MV)
自分がハロプロを知った頃からJuice=Juiceの存在はもちろん知っていましたし、楽曲もいろいろ聴いてはいました。しかしこのグループに本格的に惹き込まれたのは、忘れもしない昨年12月10日。宮本佳林卒業コンサートの中盤でこの曲が始まった瞬間でした。
まず出だしで鳴るギターで一気に意識を引きつけられ、続いてドラム、サックスっぽい電子音、さらにキーボードが加わっていくイントロがもう最高です。歌では、Aメロ、Bメロとマイナーコード主体で進行してからサビに入ったところ(「きっと人生はチョイスの連続さ」「恋や友情や進路やエトセトラ」)で突如メジャーコードに転じるのが強烈なフックになっていて、一度聴いたら忘れられないインパクトがあります。
この曲に関しては作詞・作曲の星部ショウさんがみずから解説してくれている動画がありますので、ぜひご覧ください。
【仕事#04】作詞作曲伝授します!Juice=Juice「CHOICE & CHANCE」編〜ハロプロ音楽理論〜
2. ドンデンガエシ(アンジュルム)
作詞:星部ショウ、作曲:宇宙慧、編曲:鴇沢直・関口Q太
アンジュルム『ドンデンガエシ』(ANGERME[A Complete Turnover])(Promotion Edit)
ハロプロにある過去・現在の様々なグループの中でも、歌い方がロックの歌メロに最もフィットしているのはアンジュルムではないでしょうか。シンコペーションの裏打ちがしっかり決まるのが心地良いですね。この曲は冒頭サビから始まるのですが、「壮大な どんでん返し、圧巻の どんでん返し」の部分での強烈なアタックが、まさに壮大で圧巻です。
この曲のリリースは2015年11月で、参加メンバーは1期から3期まで。竹内朱莉と室田瑞希がロック歌唱の芯を作り、福田花音と田村芽実が脇を固め、他のメンバーもしっかり追随して素晴らしい楽曲に仕上がっていると思います。
3. 私を創るのは私(アンジュルム)
作詞:井筒日美、作曲・編曲:KOUGA
アンジュルム『私を創るのは私』(ANGERME [It is me who constructs myself.])(Promotion Edit)
続けてアンジュルムからもう1曲。2019年11月リリースですので、『ドンデンガエシ』から4年が経過してメンバーは半分以上が入れ替わっています。ボーカルの声は多様性が増していますが、ロックな歌い方は十分受け継がれていると感じます。笠原桃奈の当時16歳とは思えない迫力も良いですし、上国料萌衣のクリスタルボイスが意外にロックとの相性が良いのも面白いです。
この曲のアレンジではバイオリンなどの弦楽器音が多く使われているので印象が柔らかくなっていますが、これをヘビーなハードロックサウンドに編曲して生バンドで演奏したら凄いものができるのではないでしょうか。
(長くなってきましたので、4曲目以降は項を分けます。)
モーニング楽曲のBPM全史②
前回の投稿(「モーニング楽曲のBPM全史①」)では、『リゾナントブルー』を転換点としてモーニング娘。の楽曲BPMの散らばりが小さくなり、この時点から何か意図を持ってその時期のBPMレベルを決めはじめた様子が感じられる、という話を書きました。
今回は、その『リゾナントブルー』以後(上のグラフの右半分)をもう少し掘り下げてみます。
まず、グラフの右半分を取り出して横方向に拡大してみます。(相変わらず見にくくて申し訳ありません。拡大してご覧ください。)
これを見ると、楽曲BPMの点がなんとなくジグザグとした波の形で推移しているように見えないでしょうか。
そこで、「自分にはこう見える」という思い込みで傾向線を書き込んでみたのが次の写真です。
グラフの分布には幅がありますし、矢印が切り替わるタイミングも絶対にここだと決められるものではありませんので、このように見えなくもないという程度にご覧ください。
この写真だけだとわかりにくいので、時期をイメージしやすそうな楽曲名を書き加えたのが次の写真です。この時期を6つのフェーズに分けて捉えられそうだということで、❶〜❻の番号も振りました。
❶は『リゾナントブルー』(2008年4月)から9期加入直前の2010年末まで。この2年8ヶ月の間、BPMはジワジワと上昇して行きました。
続く2011年初めから2012年末までの2年間(❷)は、9期と10期のデビュー曲である『まじですかスカ!』(2011年4月)と『ピョコピョコウルトラ』(2012年1月)のような高速曲の例外はあるものの、一転して楽曲BPMは下降傾向にありました。
それが再び反転するのが11期が加入した2013年初め頃で、ここから2014年末の'14ファイナルまでの2年間(❸)、モーニングの楽曲は高速化を続けていきました。
そして12期が加入した2015年初頭、突然不連続な変化が起こります。❸の後半では140から150が普通だったBPMが突如として120台に低下したのでした。(この時期に起きた楽曲の急変については以前の投稿「鞘師里保の歌唱はリズムセクションである⑤」で触れましたので、よろしければご覧ください。)
このように一挙に低下したBPMですが、その後2016年終わり頃までの2年間(❹)をかけて少しずつ上昇し、140程度まで回復していきました。
13期が加わった2017年初めから2018年夏までの約1年半(❺)は、その前後とは明らかに異なり、BPMが大きく発散した時期でした。色々な手数を打って、次の姿を模索していたのでしょうか。
そして、2018年の秋以降、BPM130から140のレンジに収束する傾向が現れ、現在に至ります(❻)。以前の投稿(「鞘師里保の歌唱はリズムセクションである⑥」)に書いたことですが、譜久村聖、佐藤優樹、小田さくらの3人で歌唱をリードする現在の体制が確立したのは2018年10月リリースの『自由な国だから』だと私は考えています。そのことがBPMの推移にも表れているように自分には感じられるのです。
さて、12年にわたるモーニング楽曲のBPMの歴史を駆け足で見てきましたが、こうして眺めることで改めて感じるのは新メンバーの加入が楽曲に与える影響が大きいことです。9期や12期についてはこれまでも強く意識していましたが、11期や13期が加入した時期にも転換があったのは新たな発見でした。
現時点ではまだ楽曲数が少ないので大きな変化は見えていませんが、15期の加入も将来から振り返ると何かが始まっているのかも知れませんね!
モーニング楽曲のBPM全史①
BABYMETALのブログだったはずが、鞘師里保を通してモーニング娘。に辿り着き、もはやモーニング研究ブログにしか見えませんね。それなら別のブログ名にするべきかとも思うのですが、それもなかなか面倒なので、当面このままでご容赦ください。
さて、以前の投稿でモーニング娘。の楽曲の速度(BPM)について触れたことがありましたが、今回はそのBPMについて更に見ていきます。前回は腕時計の針を見ながら雑に測っただけでしたが、今回はスマホにメトロノームのアプリを導入しました。アプリの画面はこんな感じです。
このメトロノームで楽曲の速度を測るのがなかなか楽しくて、ついやってしまいました。1997年から現在に至る23年分のモーニング楽曲のBPMを片っ端から計測するという暴挙を。
ただ、シングル曲はカップリングも含めてほぼ網羅できたはずですが、アルバム曲は "にわか" ファンである私でも知っている曲だけに限定しました。それでも測った数は150曲に及び、モーニングの歴史の厚みを改めて感じました。
こうして楽曲速度を計測した結果をグラフにしてみたのが下の写真です。(見にくくてすみません。画面を拡大してご覧ください。)
一番左の『愛の種』(1997年11月)から右端の『ギューされたいだけなのに』(2020年12月)まで、横軸の左から右に向かって発表順にBPMを点で示しています。縦軸がBPMで、70あたりから210ぐらいまで幅広く分布していることがわかります。
ちなみに、楽曲の速度は曲中で変わっていくのが普通ですので、原則としてサビ部分のBPMを取っています。ただ、サビでは測りにくかったために間奏やAメロで取った曲もいくつかあります。
さて、このグラフは一見したところでは点が乱雑に散らばっているようですが、よく見ると左半分と右半分で様子が違っています。左側は散らばりが大きいですが、右側はある程度の幅の中に点が収束していて、ある時点から何か意図を持ってその時期のBPMレベルを決めはじめた様子が感じられるのです。
この左半分から右半分に転換した時点を赤線で示したのが次の写真です。転換点となったのは、あの名曲『リゾナントブルー』(2008年4月)でした。
高橋愛がモーニング娘。のリーダーに就任したのが2007年6月ですので、『リゾナントブルー』がリリースされたのはプラチナ期が始まって10か月ほど経った頃のことでした。
アイドル戦国時代と言われる状況の中で、テレビ露出が減ったプラチナ期のモーニング娘。はライブパフォーマンスのレベル向上に取り組んでいったとよく言われていますね。朝日新聞デジタルにプラチナ期に焦点をあてた素晴らしいインタビューシリーズがありますが、その中で高橋愛が次のように語っています。
「ちょうどその時期(=リーダーに就任した頃)くらいから、他のアイドルグループが増えてきた。次第に“アイドル戦国時代”と呼ばれる状況になっていくのですが、ある時つんく♂さんから『こういう時代だからこそ技術をつけろ』と檄(げき)を飛ばしていただいたことがあって、『とにかく格好よくしなきゃ!』という気持ちが強くなっていきました。その頃から、つんく♂さんが作ってくださる楽曲も本当に格好いい歌詞やサウンドが多くなってきました」
https://www.asahi.com/and_M/20180717/154487/
この最後に語られている楽曲の変化がまさに『リゾナントブルー』以前から以後への転換を指しているのではないかと自分は考えているのですが、どうでしょうか。
さて、グラフの左半分をもう少し見てみましょう。BPMのバラつきが大きい左半分ですが、ちょうどその真ん中あたりで分布の仕方が変わっていることに気付きます。次の写真でハイライトしたように、2003年11月頃から速い曲と遅い曲にくっきり分かれ、それまでボリュームゾーンだったBPM130くらいの楽曲が一切なくなってしまうのです。
2003年は6期メンバー(亀井絵里、田中れいな、道重さゆみ)が加入した年ですが、それとこの楽曲BPMの変化との間に関係があるのかないのか大いに気になるところです。
ただ残念ながら、プラチナ期よりも前のモーニングに関しては自分の勉強がまだ全然足りていません。左半分の掘り下げは今後の研究テーマといたします。
次回の投稿では、右半分についてもう少し詳しく見ていきます。